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蘭璽メルマガ26年3月号:【「妊娠を知らなかった」は通用しない――合意退職後に妊娠が判明した従業員からの労働関係回復請求が棄却された事案】
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【「妊娠を知らなかった」は通用しない――合意退職後に妊娠が判明した従業員からの労働関係回復請求が棄却された事案】
2026.3.25発行 3月号~
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皆様
こんにちは!
上海迈伊兹兰玺人材咨询有限公司の向井蘭です。このレターは、弊社の谷、向井、龚がこれまでに名刺交換させていただきました皆様にお送りしています。毎月、中国における人事や労務の話題をお送りしておりますが、もし配信不要の場合、下記のアドレスへご連絡ください。
またバックナンバーは、弊社HP(http://myts-hr.com/column.html)にございますので、是非、ご確認ください。
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Ⅰ 事案の概要
上海市内の企業に勤務していた既婚女性従業員趙某(仮名)は、労働契約の満了にあたり、会社との間で「労働契約終了通知書」に署名押印した。同通知書には、①契約満了後は更新しない、②経済補償金を支払う、③双方間に一切の労働紛争は存在しないことを確認する、④本通知書は双方の署名押印日から効力を生じる、との条項が含まれていた。
退職申請書にも、「自らの身体状況を把握しており、妊娠産後授乳期(いわゆる三期)療養期間等に該当するか否かを認識している」旨の自認文言が記載されており、趙某はこれに署名していた。
退職から約1か月後、趙某は病院での検査により、労働契約終了前から妊娠していたことが判明(推定週数約6.2週)。その後、趙某は「署名時に妊娠を知らなかった=重大な誤解があった」として仲裁訴訟を提起し、労働関係の回復を求めた。
Ⅱ 裁判所の判断
争点1「通知書」は合意書か、それとも会社の一方的行為か
二審裁判所は、文書の名称が「通知書」であっても、以下の点から双方の合意書と認定した。
「双方間に一切の労働紛争は存在しない」「いかなる権利も主張しない」との権利放棄条項が含まれていること
「本協議は双方の署名押印日から効力を生じる」との発効条項が明記されていること
会社従業員双方がそれぞれ甲方乙方として署名押印していること
争点2「妊娠を知らなかった」ことは重大な誤解に当たるか
裁判所は重大な誤解の成立を否定した。その理由は以下のとおり。
趙某は既婚の育児可能年齢の女性であり、自らが妊娠している可能性について予見できた
退職申請書に「三期等の身体状況を自ら認識している」旨の自認文言に署名していた以上、署名時点で妊娠の可能性を検討すべきであった
結論控訴棄却、労働関係の回復請求は認められなかった。
Ⅲ 弁護士所見
本判決は、実務上いくつかの重要な示唆を含んでいます。
第一に、文書の「名称」より「内容と形式」が優先される点です。「通知書」という名称を使っていても、合意条項?権利放棄条項発効条項が盛り込まれ、双方が署名押印していれば、裁判所は「合意書」として扱います。逆に言えば、会社側が「これは通知書であり一方的行為だ」と主張しても認められない可能性があります。文書の設計は名称でなく内容で行うべきです。
第二に、「三期」自認文言の実務的有効性が確認された点です。「自らの身体状況(三期等)を認識している」旨の自認文言を退職書類に盛り込む実務は、本件でも重要な判断材料として機能しました。ただし、この文言さえあれば万全というわけではなく、あくまで総合判断の一要素です。
第三に、この判決は会社側に有利な結論ですが、楽観は禁物です。仲裁委員会の一審段階では、会社側が「一方的行為」として違法と判断されており、二審でようやく逆転しています。合意退職をめぐる紛争は、文書設計の巧拙で結論が大きく変わります。
第四に、日本法との比較で注意が必要な点があります。日本では、労働契約期間満了+更新拒絶(雇止め)の場合、妊娠中の従業員であっても、期間満了自体は直ちに違法とはなりません(ただし、雇止めの合理的期待がある場合は別論)。中国法では「三期」中の従業員への労働契約終了は原則禁止であり、合意退職の有効性が否定されれば会社側に重大なリスクが生じます。この点、日本の感覚で対応すると判断を誤る可能性があります。
Ⅳ 実務チェックリスト
本判例を踏まえ、契約満了合意退職の場面で以下の点を確認してください。
書類設計
終了書類に「合意条項」「権利放棄条項」「発効条項」を明記しているか
甲方乙方として双方が署名押印する形式になっているか
「三期療養期間等の身体状況を自ら認識している」旨の自認文言が退職申請書等に含まれているか
退職前の確認プロセス
契約満了の通知は法定期間(原則30日前)を守っているか
従業員が書類に署名する前に、内容を十分に読み、理解したことを確認するプロセスがあるか
書類への署名を従業員が「強制されたと主張できる状況」で行っていないか(単独での対話記録、証人の有無等)
三期該当者の事前スクリーニング
契約満了時に、当該従業員が三期(妊娠、産後、授乳期)に該当するか否かを、プライバシーに配慮しつつ確認するプロセスがあるか
三期に該当する場合、中国労動法上の終了禁止規定(労働契約法第42条)に照らして法務部門、顧問弁護士に確認しているか
三期が確認された場合、合意退職への誘導ではなく、契約延長?条件協議の選択肢を検討しているか
記録保管
退職交渉のやり取り(口頭含む)を書面&メール&WeChat記録等で保存しているか
署名済み書類の原本を適切に保管しているか(仲裁&訴訟に備えた5年保管が望ましい)
Ⅴ まとめ
本判決は会社側が最終的に勝訴した事案ですが、仲裁段階では敗訴しており、二審まで争わなければならなかった点を見落としてはなりません。退職書類の適切な設計と、退職プロセスの丁寧な運用があって初めてリスクを最小化できます。
中国の労働紛争は、日本以上に「書面の存在と内容」が勝負を決めます。契約満了、合意退職の場面では、必ず事前に現地顧問弁護士への確認を行うことを強くお勧めします。
(2019)沪01民終11509号 上海市第一中級人民法院
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――【発行】
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